猪狩雄斗さん 海外派遣奨学金

<2015.11.16第2回ときめきの集い『藝大基金寄附者感謝報告会』スピーチ>

私たち音楽家にとって、海外の空気を感じること、あちこちから聴こえてくる音楽に耳を傾けること、そしてそこに住む方々と触れ合うことというのは、どんなに練習してもそれには及ばない貴重な体験です。

このたび私は、藝大基金の制度を使用させていただき、2月に3度目の受講となるミュンヘン国際音楽セミナーのためミュンヘンへ、そしてその後、ハイレベルな音楽教育の現場を体験するため、パリを訪問しました。

私はある夢をもって、渡欧しました。
それは、今回初となる、セミナー修了後にコンクール制度が導入され、私は自身が愛するドイツの地で行われるコンクールにおいて、附属高校から大学院まで学んできたことの集大成として『どうしても認めてもらいたい』そんな夢をもって…

しかし、ヨーロッパに長期間滞在するというのは大きな金銭の負担を伴うことです。
家族の援助がありながらも、やはり自分で働いて、というのは避けられない、しかしそんな時間も練習や語学の勉強にあてたい…私は時間に追われていました。そんな中、舞い込んできたこの素晴らしい奨学金のお話はとてもありがたいものでした。

mr.igari2015-2

 

セミナー期間中、レッスンを受講している時の自分、ホームステイでホストファミリーと毎晩音楽について語り合う私というのは、これまでの訪問と違い、余裕がありました。レッスンでは、よりハイレベルな角度からの光を当てていただき、語学においては積極的な自分がそこにはいました。
それは、この奨学金のおかげだったと確信しております。

そして、コンクール。
尊敬するブラームスで臨んだその舞台。
ステージに立った私はあることに驚かされました。それは、演奏中、ドイツ人のお客様から伝わる音楽に対して真摯な、熱い視線でした。それはまるで一緒に音楽しているかのような…私は、それになんとか応えようと必死でした。
演奏家にとってあの瞬間というのは、本当に幸せな時間でした。

結果は最高位でした。
体現することができました。
しかしそれよりも嬉しかったのは、コンクール終了後の、お客様からの「Sehr schön!」という言葉でした。自分の想うブラームスの演奏で、ドイツ人のお客様にその言葉をいただけたのは、それだけで、あの地に行けて良かったと心から思います。

私はこの経験からまた、ある夢を持つことができました。
海外の地に足を踏み入れること、それは私たちにとって、無限の可能性のスタートです。今日お集りの皆さまには、大変な援助をいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。皆様のおかげで、私は人間としてもひとまわり成長することができました。
本当にありがとうございました。
そして、またこれから羽ばたいてゆく藝大の学生の成長を、どうか見守っていただけると幸いです。

 

大学院音楽研究科 器楽専攻(ピアノ) 修士2年
猪狩雄斗